2000年6月23日(金)/雨
えーども初めまして。脚本担当の横手です。 監督もすなる日記というものを我もしてみんとて、乱入する次第です。 監督が作品についておおっぴらにできないことを書くというのが主旨のようです から、わたしはせっかくなんで、監督についておおっぴらにできないことをチクチクと書いてみようと思います。 って、なんか口調まで似てきちゃいました。 わたしがひきずりこまれた、もとい、お誘いいただいたいきさつは、だいたい、 監督のおっしゃるとおり。 でも「こんな企画があるんですけど、ホン書きません?ひとりで」てなやさし いもんじゃなくて「書けるよね、ひとりで」というオシの強いもんだったと記憶 しております。 しかし、そこはそれ無駄に年数だけは長いけど、まったくキャリアというもののない、C級D級ライター横手ですから「やた!天下の佐藤順一!これで成功 はがっちょり約束されたようなもん。これを足がかりに世界に飛び出すのだわは ははは」などと一瞬にして舞い上がり、目の前にはホテルの最上階でブランデーグラスを揺らすおのれの姿、または専用ジェット機でモナコに向かうためタラップを上がるおのれの姿、またははとバスの観光コースに取り入れられるおのれの 豪邸以下略の白昼夢まで見る始末。受けないわけがないじゃないですか! でも、書くのは自分、ということにそのときまったく頭がいかなかったのは、猿としかいいようがありません。でもって「わたしの怒濤のがんばりによって11月には3本アップ」などと監督 は持ち上げてくださってますが、実は年内に「13本全部アップ」という厳命が あったのです。去年の6月、シナリオ作業がスタートした頃には。 「大丈夫ですよね」にっこり笑って監督は言いました。「えへへへへへたぶん」わたしも笑って答えます。 監督はにっこり笑って怖いことをいうので有名です。この「ほほえみがえし」はシナリオが全話アップするまでつづきました。 ええ。むちゃくちゃ雰囲気のいい打ち合わせでしたよ。ねえ! でもって話を戻すと、わたしの次には山下さんと河本さんが拉致、もといスカウトされ、その布陣の鉄壁さに、わたしは監督のオシの強さ、もとい、人徳に舌を巻きつつ、本格的なシナリオ作業に取りかかったのでした。それが去年の夏のこ とであります。
2000年6月26日(月)/曇り
6月あたりからもたくさシナリオを書き始め、冒頭3話の初稿があがったあたり、
夏の終わりか秋のはじめに、わたしは言いました。
「キャラがないと書けない」。
嘘です。書けます。 山下さんがやってくれそうだっていう話は聞いていたので「あー。山下キャラ、
はやく見てえ!」と思ったのがいちばん正確なとこですけど。
佐藤さんはどう思ったのかどうか知りませんが、にこにこ笑って「そうですねぇ」。で、山下さん登場。
山下さんは、河本さんいわく「性格がよくて仕事ができる、珍しい人」。
性格はいいけど、仕事が遅い人。性格が悪くて、仕事が遅い人。てのは、腐るほどいます。
いや、知らんけど。いるらしい。 山下さんは、美点をふたつ兼ね備えた珍しい人であると。
いや、実際、そのとおり。 いつも穏やかで、人の悪口を言わない。こっちが毒吐いてても笑って聞いてくれる大人の人。
ユコエリのふたりは、見た途端に「そうそうそう!」と思いましたね。「これだよ、これ」って感じ。
最初は、エリのほうが背が高い設定だったんですけど、ユコのほうが大きいほうがいいんじゃないか、という意見も、
山下さんのほうから出てきたと記憶してます。
チビッコたちもすんなり決まりました。シャルたち男たちがフードを取ると実は
ハゲ(剃ってるんですけど)っていうのが、わたし的にツボ。
あと、山下さんが書いてくれたイメージボードがまた、すんばらしくて。
イメージボードってのは、キャラを含めた光景を描いたものなんすけど、ユコエリを迎えるチビッコたちが、
すんごいいいんですよ。存在感、リアリティ、空気が伝わってくる。
煮詰まったときは、これを見て、仕事してました。
そのうち、アップできればいいんだけど。できるかなぁ。
その後、「フィルムがないと書けない」とはさすがに言えず、わたしは3本まとめた直しに取りかかります。
今回、山下さんの人柄に影響されてか、「善人」モードでお送りしました。
あっ。なんていうことを言うんですか、佐藤さんたら。
私が車を修理したのは2回ですよ。だって、あまりにも頻繁にぶつけるもんで、
まとめて直さないと割高になってかなわんのです。ほほほ。
そうそう。はじめてぶつけたのは、走行距離が300キロにもならないころだったなぁ。
駐車場に入ろうとしたら満杯で「さがれ」といわれ、そしたら後ろから車が入ってきて、にっちもさっちも。
さがってぶつけ、抜け出そうと前進してぶつけ。よろよろになりながら帰ったんだっけなぁ。
それからもいろいろありましたよ。縁石に気づかず乗り上げ。タクシーとぶつかり。
赤信号をぶっ飛ばし。 塀にライトをぶつけて割り。
人を轢いてないだけ、ま だマシって感じですか。 ライト割り事件といえば、隣りに座っていたのは山下さんでした。
西荻から荻窪に送っていく途中、ちょーっと細い道に入ったら、がりごりぱきゃんとね。
送っていくなんてカッコウつけた自分を呪ったもんです。あうう。
車つながりで、河本さんの話をしましょう。 河本さんのことを最初に認識したのは「まほTai!」のとき。
ホン読み(注:できあがったシナリオに関して、監督があーだこーだいう場)で 某スタジオに通っていたら、
わたしが乗っている自転車とおんなじのが、室内に置いてあったんですね。
「あ。お仲間だ。誰です誰です乗ってるの」とプロデューサーに訊いたところ、それが河本さんでした。
その後、一部でサイキック巨編と言われた「まほTai!」12話を担当していただき、
自転車以外に作品も認識し、ついでに顔もようやく覚えて、そんで「ストレンジドーン」をいっしょに
やってもらうことになったのでした。
河本さんとわたしは、近畿と山陽の違いこそあれ、吉本の洗礼を受けたもの同士。
ほうっておくと、どんどん話がギャグだかマジだかわかんない方向にそれていってしまいます。
いや、アイデアのほとばしりと言い換えましょう。
きしめん海老フライ人の佐藤さんにはつらい時期もあったかもしれませんが、さすが天下の佐藤順一(よ!)。
一月もしない間に、無駄口、もとい減らず口、もといお笑いのセンスを発揮するようになったのでした。めでたしめでたし。
おかげで、打ち合わせがのびるのびる。 だから、ミスドをもそもそ食べながら、暗く沈んだりはしないのです。
あんな和気藹々とした場はなかったじゃないですか!
現在、河本さんは自転車の足回りを一新し、ご機嫌のようです。
ブリティッシュグリーンのモールトンを見つけたら、おおげさに感心してあげましょう。きっと喜びます。
ちなみに、河本さんは「かわもと」ではなく「こうもと」です。名前は昇悟。
なんだか青年剣士のようですね。本人、全然違いますけど。
最後に佐藤さんの名言を。
「直すから事故る。直さなければ事故らない」
実に趣深い言葉をありがとうございます。
戦後、日本人が失って久しいものは恥と礼節だということですが、今回はもちろん日本人論じゃありません。
恥ずかしいこと。穴があれば入りたいようなこと。夜、ひとりで布団のうえにうずくまり、思い出してはうううと呻くようなこと。
どんな人にも、ひとつやふたつあるでしょう!
ないとはいわせません。 わたし? ありますとも!
新宿高野の前で、二つずつただで配ってもいいくらいです。(って、ローカルなネタですみません。新宿駅東口の高野というお店の前では、
ポケットティッシュを配っているおじさんおにいさんおねえさんが、いつも10人くらいいるのです)
そのポケットティッシュ、もとい恥ずかしいことのけっこう上位にランクするのが、
自分の考えた台詞を、ひとに読まれるってこと。
そーです。アフレコです。
「ま、まさか……おまえはっ!」
「そうさ、あんたが殺したと思っていた実の兄弟さ」
「ぬう……」
なんて台詞を、もう感情こめて言われてごらんなさい。
いや、こんな台詞はストレンジドーンにはありませんけどね。
そらもう、頭抱えて、転げまわりたくなります。スタジオはせまいので、膝の肉をぐっとつかんで耐えますが。
自分で恥ずかしいような台詞を、ひとに言わすんかい!と言われたら、
すみませんすみませんと言うしかないです。
今でこそちょっと慣れましたが、剣戟シーンの「はあっ!」とか「うっ」とか言う台詞でさえ、恥ずかしかったもんです。
だって「はあっ!」て書いたら、ほんとに「はあっ!」て言われてしまうんですよ。
「ぬおっ」て書けば「ぬおっ」、「おぐぁっ」て書けば「おぐぁっ」、
「とっぴんぱらりのぷう」と書けば……書いたことはないですが、言ってくれるんじゃないでしょうか。
で、この間のアフレコの話。 山場は山場なのですが、
それゆえにわたし的に恥ずかしい台詞がてんこもりなのでした。
しょっぱなの***が****に**するところからもう、くくくくるしい。
なんだ、この濃ゆい話はー! 濃ゆいキャラはー! 自分で書いてるんじゃなきゃ、すんげーおもしろいんですけどね。
というわけで、放映の際にはお見逃しなく。
次は何書こうかな。ライターはいちばん最初に仕事が終わってしまうので、ちょいと淋しいのでした。